
もう昨年の話ですが2024年9月に発売された谷山浩子さんのセルフカバー・ピアノアルバムの
ジャケットのイラストを担当させて頂きました。
中面にも谷山さんの曲に因んだ挿絵を描かせて頂いています。
ピアノアルバムなので歌詞はないのですが、曲の世界がピアノから次々と飛び出しているようなイメージで描きました。
谷山さんの『沙羅双樹』という曲を聴いて本当に感動してしまって、「あなたはわたし」という歌詞が、自分が常々抱いているわたしは誰かでもあるし誰かはわたしでもある...というイメージ(他者との同一化という話ではなくて自我の生まれる前の段階の話とでもいうのか)そして過去も未来もそこに生まれて死ぬ人々も全部は繋がっているといったイメージに重なるように思えて(実際は違うかもしれません...!)特別な歌になりました。谷山さんがピアノを弾いている場所は確実にこの世界なのだけれど、どこか別のところと繋がっている場所のような感じがするので、このアルバムにも収録されている沙羅双樹の木の上で弾いている姿がぴったりのように思いました。そこで奏でられる音はこことは少し違う不思議な世界に繋がっているような、そんなイメージで楽しく描きました。
余談ですが沙羅双樹というのは平家物語にも出てくるものだから、普通に昔々から日本にあるものだと思っていました。というよりはそれについてよく考えたことがありませんでした。絵を描くにあたって娑羅双樹というものを実際に見てみたくなってにわかに検索し、夏椿というのが沙羅双樹の別名だと思い込み、昨年当時近所だった井の頭公園にあるとの情報を得た勢いですぐに見に行くことにしました。歩いている途中ご近所のN子さんにお会いして沙羅双樹つまりは夏椿を見に行く話をすると、沙羅双樹と夏椿は別物ではないかと教えて頂きました。道端で一緒にスマホ検索、沙羅双樹は日本の気候では育ちにくく日本には数カ所にしかないとのことが判明しました。「沙羅双樹」を見に行く気で満々だったので落胆しましたが、一応確認しに行った公園の夏椿はそれはそれでとても美しく、ちょうど花が咲く時期だったので、丸く白い蕾に触れるとしっとりとシルクのようで今思い出しても良い気持ちになります。
そんな日本ではレアな沙羅双樹がなんと意外にも近い新宿御苑の温室にあるとの情報を得て、さっそく次の日に見に行きました。(我ながら謎の原動力でした)残念ながら花の時期は終わっていましたが、葉が思っていたよりも数倍大きく(インドではお皿に使われたりするらしい)実際に見て良かったと思いました。なんといっても祇園精舎の鐘の色...に出てくるあの沙羅双樹を実際に見たということだけでほぼ酔いそうでした。それにしても平家物語の昔には日本の気候はインドに近く沙羅双樹が育っていたということなのだろうかと考えるときっとそうではないだろうし、色々な涅槃図に描かれた沙羅双樹を眺めていると、もしかしたら日本では仏陀が入滅する時に囲まれていたとされている木として、ある意味架空のものだったのではないかという想像が浮かびました。(わたしの勝手な想像なので実際は分かりません)そんなこんなで自分なりの沙羅双樹で良いのだ、との結論に至り、このようなイラストになりました。
どうでも良い話が長くなりましたが、谷山さんの世界に浸りながら描く作業はとても楽しく、本当に素敵な体験でした。
ヤマハミュージックコミュニケーションズ 2024
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